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「……いつまでって、まだ始まってもいないだろう。ここまでは注意事項だ」
「はー!?ありえないっつーの!もう飽きたわよ!!ねーヴァルっち!」
「む?」
「こんなん調べたってなんの意味もないじゃん!珍しくフェンリっちが図書館に篭ってると思ったら!」
「より閣下のことを理解できると思ってな。さて、では続きを」
「ちょちょ、待ってよ!!このままずーっと吸血鬼の名前の語源だけ挙げてくわけ!?」
「だけというわけではない。確かにロシアからトルコまで一カ国ごとに語源を調べはするが、そこから神学医学民俗学宗教学におけるそれぞれの吸血鬼像を追求していく」
「うわ止めて良かった。もう意味わかんないし」
「意味はわかるだろーが。名称と意味・実体との関係を調べるんだ。原語を収集し、その集積の中から筋道を見つけ出す」
「……は?」
「…フェンリッヒよ、もう少しわかりやすく言ってやれ」
「閣下」
「例えば河童だ。知っているな小娘?」
「あ、うんうん。カッパはわかる。頭にお皿のっけてて~、緑色のやつでしょ。キュウリが好きなのよね」
「まぁ、間違ってはいない。がしかし、河童というのは学術用語だ」
「へ?」
「元は川に棲む童子形の水怪を指す方言の一つだった。それを、この類を表す名称としたのだ。ここまで大丈夫か?」
「…あー、あ、うん……」
「この水怪は日本全国に知られている。その行動も、子供を溺れさせたり、相撲を取ったり、馬を水中に引き入れたりするなど、ほぼ共通するが、名称はカワタロウ・カワコ・メドチ・エンコなど、ほとんど地域により異なる」
「ぷっ、カワタロウって、超安直なんですけど!」
「小娘、閣下がお前のために説明してくださっているのだ。真面目に聞け」
「対して、ウブメという妖怪を知っているか?漢字で書けば「産女」だ。カッパと違い、名称はどの地域でもほぼ統一されてる」
「へぇ、わかりやすくていいじゃない」
「だがその意味は地域によってまちまちだ。赤子を抱いて現れ通行人に抱かせようとする霊のほかに、海難者の亡霊や船幽霊を指す地域、怪鳥と考える地域もあるのだ」
「ええと、カッパと逆パターンってこと?」
「うむ。名称が同一であっても、意味されるものには大きな違いがある。民俗学を研究する上で、こういった名彙アプローチは重要だ」
「う、うーん……」
「系統的に変遷が辿れそうではあるんですけどね」
「ごめんフェンリっち、こんがらがるからちょっと黙ってて」
「あ!?」
「その語源を調べるってのに意味があるのは何となくわかったけど…。全部挙げられたって付き合いきれないわよ!もっと面白いなって思ったとこだけ箇条書きにして!」
「お前なぁ」
「だってずーっと外国語だけ聞かされるんでしょ!わけわかんないもん!語源を調べた結果わかったってことだけで十分よ!」
「…まあ、単調だからな。小娘の言うことにも一理あるぞ、フェンリッヒ」
「……は。閣下がおっしゃるのなら、そうさせていただきます」
「うんうん!」
「そうだな…。まず、まともな人間は吸血鬼にはなり得ない」
「おいちょっと待て。なんだそれはどういう意味だ?」
「吸血鬼になるのは普通人殺しなどの犯罪者や悪人で」
「こら、何事もなく進めるな!」
「ふーん。ヴァルっちって元犯罪者だったんだー」
「へっ?いや、違うぞ、これはただの伝承で」
「ねぇねぇ、そういう場合ってやっぱさ、悪いことするとこうなっちゃいますよーっていう意味も含まれてるのよね?」
「それはそうだろうな」
「じゃあ吸血鬼になるのって罰ゲームみたいなものなんだ」
「へぇ、お前にしては物分りがいいじゃないか」
「おい!!」
「それと吸血鬼は死んだときの姿だけでなく、狼や馬、猫、蝶など様々な動物の形になれる」
「あとコウモリね。それは知ってる!」
「まぁ、様々な動物になれるのだからコウモリくらい容易いだろうが、特にコウモリになるという伝承は見つけられなかった」
「え、うっそぉ!?吸血鬼といえばコウモリでしょー!」
「一番多いのは蝶になって逃げるというものだったな」
「蝶?やだヴァルっちってば乙女~」
「……だから、伝承上の話だと言っているだろうが」
「でも逃げるって、何から?」
「人間に寝込みを襲われたときだな」
「寝込みを襲われて、蝶になって逃げるって、お姫様かっつーの!」
「……」
「ねぇねぇ、他にもそういうちょっと可愛い話、ないの?」
「ヴェネチアまで卵の殻の船に乗って、好きなお菓子やボンボン、林檎や梨を買っていたが、人間が追いかけていって、悪さをしないように驚かせたという話もある」(※マジです)
「そんな!好きなお菓子を買ってただけで追い返されるなんてヴァルっちかわいそう…」
「…いや、だから、俺がそれを体験したわけでは……」
「あとは生前の家族のところにご飯を食べに行ったが、追い返されてしまったという話や、結婚式に招いてやると嘘をつかれて、遠くで待たされたままにされたという話も…」
「ヴァルっちー!!」
「ええい!伝承上の話だと言っているだろう!!」
「吸血鬼って意外と可愛いんじゃん」
「ふん。そこだけ取り出すからだろうが!言わせてもらうが、まず逃げた蝶を取り逃がせば、次の夜に村人は皆殺しにされた。ヴェネチアに出かければ、子供の血を吸う。吸血鬼に飯を食わせれば、毎晩その村に赴き村人を一人ずつ殺す!」
「……伝承上の話…だよね」
「はッどうだか」
「まぁ、吸血鬼はそもそも危害を加え、人間に畏れを与える者だからな」
「当然。それが仕事だ」
「ん?結婚式は?遠くで待ってるんだよね。やっぱり戻ってきて殺しちゃうの?」
「……」
「…あ、ずーっとそこで待ってるのね。やっぱり可哀相かも…」(※マジです)
「…まぁもういいだろう、この話題は」
「それから吸血鬼にありがちな特徴といえば、鏡に映らないというのもあるが、それに関しての伝承は1つもなかった」
「がーん!夢が崩れたわ!ヴァルっちしっかりしてよ!」
「そう言われてもな……」
「あと吸血鬼は夜、特に満月の頃に出歩くのだが、土曜日は避ける」
「え、何で?定休日?」
「土曜日に生まれたものに対しては何もすることができず、見つかると殺されてしまうというからだ。18世紀末になると、土曜日には全く活動できないという話になる。だから、土曜日生まれでないものが吸血鬼を殺せるのは土曜日だけらしい」
「へぇ…、私って何曜日生まれだろ」
「こ、殺す気か!?」
「確認だけじゃない。でもさぁフェンリっち。最初に言ってたキシローヴァ村の事件とかで、杭を刺して殺す~云々言ってたけど、ヴァルっちには無意味よね…。他に方法ないの?」
「…!?」
「寝ているところに熱湯を注いだり、溺れさせたり、寝床に茨を入れたり、墓の上で火をたく、銀の銃弾で撃つなど、だな」
「おま…簡単に言うことじゃないぞ」
「ふーん、そうなんだ」
「ほらみろ!」
「大丈夫ですよ。閣下は火属性の魔法をくらっても、銀の弾丸で撃たれても生きてらっしゃるじゃないですか」
「それはそうだが、大体寝込みを襲われるというのが気に食わん!正々堂々殺しに来い!」
「ヴァルっちを正面から殺せる奴なんているのかな」
「いないだろう」
「まぁ一般的な吸血鬼の倒し方はわかったわ。だけど吸血鬼が活動し始めてから狙われたら、もうどうしようもないの?」
「棒に火をつけて振り回せば逃げるそうだ」
「あれ、案外ちょろい!」
「……」
「うーん、結構面白いのね、吸血鬼!もっと怖いのかと思ってたわ」
「血なまぐさい話も多いがな。まあそのへんはイメージ通りだろうから、わざわざ紹介する必要もないだろう」
「このままだと小娘にあることないこと俺の話として広められそうだ…」
「おや、しますか?血なまぐさい話」
「…無理にする必要もない」
「なんだか既に、色々諦めてらっしゃいますね。では気色の悪い話を1つ」
「血なまぐさいではなくか?」
「吸血鬼には骨がないとされる地域もあります」
「何それ気色わるッ!」
「俺はあるぞ、骨」
「骨がなくてどうするの?どういうこと?」
「ゼリー状の血の袋で、どんな小さい穴からも忍び込めるらしいぞ。そして吸血し、殺す」
「嫌!なんか嫌!」
「だが、その吸血鬼が四十日以上生き延びると、人間の姿を取るのだという」
「じゃあ生まれたばかりのヴァルっちは…」
「…だから伝承だと何度も……。…もう好きにしろ」
「でもその状態で人を殺せるなら、人間の姿になっちゃったらもっと怖いことになるんじゃないの?」
「ふむ、四十日後、人間の姿になれば」
「なれば…?」
「妖精と歌を歌ったり笛を吹いたりして遊ぶ」
「……」
「……」
「えーと、四十日後はなんかすごく怖いことになるんだよね?」
「歌を歌ったり笛を吹いたりして遊ぶ」
「ヴァルっち…」
「そ、そんな目で見るな!」
「こんなところだろうな」
「あれ、もうおしまい?なんだっけ、語源だかなんだかのくだりに直接関係ない話ばっかじゃない!」
「キリがないと言ったのはお前だろ?それは事実だから、詳しくは触れんが、まぁ、大きく分ければ魔女、夢魔、狼男、怪鳥というところだ」
「コウモリはこの怪鳥からきているのではないかと思うぞ」
「特に狼男の特徴が出ている話は多かった。狼に変身したりだとか」
「そうなの?狼男と吸血鬼って、仲が悪いイメージなんだけど」
「さっき、四十日以上で人間の姿になるという話をしただろう?そうなった吸血鬼を殺せるのは狼だけだという。他にも狼が吸血鬼を殺せるという話がある国は少なくない。そういう話から、人狼と吸血鬼が犬猿の仲だという定説ができたのだろうな」
「土曜日しか殺せないんじゃなかったっけ?」
「そういう逸話が大半だから大きく紹介したが、実際には国どころか地域ごとに微妙に違っている。伝承なんてそういうもんだ。納得しろ」
「うーん。しょうがないか」
「で、もう終わりなんだろ?」
「いえ、せっかく語源の話に戻ってきたので、少しだけ話しましょうか」
「……」
「ねぇねぇ、魔女とか夢魔とかっていうけどー、吸血鬼って女の子もいるの?」
「夢魔は別に女と限らんだろ?男の夢魔だっている。で、魔女だが、別に語源になっているというだけで、魔女由来の地域も男の吸血鬼が一般的だ。女の吸血鬼もいるにはいるがな」
「へー!会ってみたいな~!ヴァルっち、会ったことないの?」
「さあな」
「…なんか、ヴァルっちずっと非協力的じゃない?色々教えてよ!」
「伝承では、金曜の夜に吸血鬼会議があると言いますが」
「何それ、同窓会みたいで楽しそう!…あ、でも行きたくはないかも。見つかったらやばそうだし」
「人間に見つかったら全員慌てて逃げ散っているから、大丈夫じゃないか?ちなみに、この金曜夜の集会は魔女の特徴だな」
「ええい!もうやめにしろ!」
「あとは夢魔の特徴で、丁度キリがいいのですが…」
「……」
「いいじゃんヴァルっち~。尻切れじゃなんかモヤモヤするよ!」
「……はぁ、それで終わらせろよ」
「ありがとうございます」
「で、夢魔ってサキュバスちゃんのことでしょ?それの男バージョンってことは、女の子をたぶらかすってわけ?」
「たぶらかすというより、生前の妻と寝るパターンは多いな。それで生まれた子は、吸血鬼になるか、吸血鬼を殺せる人間になる」
「あれ?奥さんとならいっか。でもそれじゃ夢魔って感じではないよねー。たぶらかしてないじゃん」
「もっと夢魔の特徴が出ている地域もあるぞ」
「あ、とうとう女の子を騙すのね!ヴァルっちめ~!」
「だから伝承だと言っているだろ!俺がいつ騙した!?姑息な手は使わん!」
「ええ、実際の吸血鬼伝承でも、騙されはしまくってますけど、騙してはいませんよ」
「へ?」
「たぶらかすのでなく、精液をエサにできる、という夢魔の特徴を引き継いでいる話は多い」
「ふーん。それってでも女の子限定じゃん。男の吸血鬼は?」
「俺はずっと、男の吸血鬼という前提で話を進めているが?」
「……」
「……」
「……え、飲むの?」
「そういう話もあるし、後ろd」
「よし、終わったな話!これで終わり!」
「……おやおや」
「ううん、こういう話が大真面目に語り継がれてるのよね…。グリム童話とかもそうだけど、元ネタは結構エロかったりするよね……」